近年、物流やパッケージデザインの世界で注目を集めているのが「段ボールケースへのデジタル印刷」です。従来のフレキソ印刷と比べて、デジタル印刷は小ロット対応や短納期、デザインの柔軟性といった点で多くの企業から注目を集めています。
本コラムでは、段ボール印刷を検討中の方に向けて、デジタル印刷の基本から、フレキソ印刷・オフセット印刷との違い、導入時のメリット・デメリット、さらにはどのような企業に最適かまで、実用的な情報を詳しく解説していきます。
目次
5.フレキソ印刷・オフセット印刷・デジタル印刷、どう使い分けるべき?
段ボール印刷にはいくつかの方式がありますが、主に使われるのは以下の3つの印刷方法です。
フレキソ印刷は、樹脂やゴム製の「凸版(とっぱん)」を使って段ボールに直接インクを転写する印刷方法で、段ボール業界では最もポピュラーな方式です。インクの乾きが早く、印刷スピードが速いため、大量生産に非常に適しています。またコスト面でも優れており、物流用途の段ボールや梱包資材など、印刷品質よりも効率やコスト重視の用途に最適です。
ただし、細かい文字や写真の再現性には限界があり、デザインの自由度は比較的低めです。
オフセット印刷は、まずコート紙などに高精細な印刷を施し、それを段ボール表面に貼り合わせる方式です。写真やグラデーション、微細な模様まで美しく表現できるのが最大の特長で、パッケージの見た目や高級感を重視する製品に向いています。
ただし、製版工程と貼り合わせ作業が必要になるため、製造コストは比較的高く、小ロット対応には不向きです。印刷の自由度が高く、中~大ロットの高品質パッケージに適しています。
デジタル印刷は、近年注目されている版を使わず直接印刷できる最新技術です。デザインデータをそのまま段ボールに直接印刷できるため、短納期・小ロット生産・多品種展開に非常に適しています。
また、1枚ごとに異なるデザインを印刷できる「可変印刷」にも対応しており、たとえばQRコード入りのキャンペーン箱や、地域・季節限定のオリジナルパッケージ制作にも最適です。
環境面でも水性インクを使用しており、揮発性有機化合物(VOC)の排出が少ない点も、サステナビリティを意識した企業にとって大きな魅力といえます。
デジタル印刷は製版(版の作成)が不要なため、従来の印刷方式に比べて初期コストを大幅に削減できます。デザイン変更のたびに新しい版を作る必要がなく、頻繁にデザインを更新する商品や、試作・テストマーケティングにも最適です。初めてオリジナルパッケージを検討される方にもハードルが低いのが魅力です。
従来のフレキソ印刷では、1000枚以上のロットでなければ割高になってしまうケースが多く、デザイン変更やテスト印刷には不向きでした。しかし、デジタル印刷は1枚から印刷可能。商品ごとにデザインを変えたいブランドや、テストマーケティングを頻繁に行う企業にとって大きな利点です。
版の作成や調整工程が不要なため、急な納期にも柔軟に対応できます。例えば、「来週のイベントまでにオリジナル箱が必要!」「新商品用に急遽デザインを差し替えたい!」など、スピードが求められるビジネスに最適です。
高解像度のインクジェット方式により、写真や複雑なグラフィック、繊細な文字も美しく再現可能。これまで段ボール印刷では難しかったブランディングやパッケージ演出が、より自由になります。SNS映えを狙ったデザイン、季節感のある演出なども簡単に実現できます。大きいサイズの印刷も可能なため、特大パネルを制作することもできます。
▲金色表現
▲写真も鮮明に印刷
メリットの多いデジタル印刷ですが、すべてのケースにおいて最適というわけではありません。導入前に知っておきたいデメリットや制約について解説します。
デジタル印刷は製版不要で初期費用が抑えられる反面、インクコストや印刷単価はやや高めです。そのため、同じデザインを何万枚も印刷するような大ロット案件では、フレキソ印刷やオフセット印刷の方が単価を抑えやすい傾向にあります。
デジタル印刷では、印刷対象となる段ボールの表面(ライナ)の種類や平滑度、含水率などによって、インクの定着や発色に影響が出る場合があります。特に未晒(クラフト)系や粗面材の場合、仕上がりの色味に若干の差が出ることもあります。
CMYKには白インクが存在しないため、茶色の段ボール(クラフトライナ)では白色を印刷で表現できません。そのため、白や明るい色を使用するデザインでは、表面が白いライナ(晒ライナ)を使用する必要があります。
しかし、白ライナは茶ライナに比べてコストが高いため、印刷内容によって材料費が上がる可能性があります。
広い面積を均一な色で塗りつぶす「ベタ印刷」の場合、印刷の特性上、バンディング(帯状の筋線)や色ムラが見えることがあります。これは印刷ヘッドの動きや噴射のタイミングによるもので、特に濃い色や面積の広いデザインで目立つ傾向があります。対策として、柄などを入れることで目立たなくすることができます。
段ボールにおけるデジタル印刷は、「パッケージ=物流用」というこれまでの常識を覆す、新しい価値を持った印刷手法です。
短納期・小ロット・多品種に対応できるこの技術は、大手企業だけでなく中小ブランドや小規模メーカーにも強い味方になります。
業種 | 活用シーン |
---|---|
EC通販業者 | ブランド性を高めるオリジナル箱、レビュー促進用印刷 |
食品・菓子メーカー | 季節・限定パッケージの少量生産対応 |
雑貨・アパレルブランド | デザイン性の高いギフトボックス展開 |
新商品開発部門 | 試作・モニター用パッケージの短納期製作 |
地域産品・農産物直販 | 商品ごとの個別表示や産地PR印刷 |
段ボールの印刷方法には、フレキソ印刷、オフセット印刷、デジタル印刷の3つが主に使われています。
それぞれに「得意な分野」や「向いている業種・目的」があるため、自社の用途に合わせた印刷方式を選ぶことが重要です。
ここでは、3つの印刷方式を比較したものを以下の表にまとめました。
比較項目 | フレキソ印刷 | オフセット印刷 | デジタル印刷 |
---|---|---|---|
版の有無 | 必要(製版が必要) | 必要(刷版+表面貼り) | 不要(データ入稿のみ) |
初期費用 | 高い(製版代がかかる) | 高い(刷版+表面加工) | 安い(製版代不要) |
小ロット印刷 | △ コスト割高 | △ 不向き | ◎ 非常に得意 |
大ロット印刷 | ◎ 得意 (大量印刷で低コスト) | ◎ 得意 (高精細&大量対応) | △ 高コスト |
印刷品質 | △ 単純な線や文字に向く | ◎ 写真・特色の再現に優れる | 〇 細かな文字・グラデーションに強い |
可変印刷(個別対応) | ✕ 不可 | ✕ 不可 | ◎ 一枚ごとに違う印刷も可能 |
用途・適性 | 定番デザイン、大ロット、安価 | 高品質パッケージ、ギフト向け | 小ロット、試作、多品種、短納期 |
段ボールケースにおけるデジタル印刷は、従来のフレキソ印刷に比べて柔軟性が高く、スピード感のある対応が可能です。小ロット・多品種・デザイン重視の現代ビジネスにマッチしており、ブランド力強化や販促活動の武器として活躍します。
これから段ボールパッケージの導入を検討されている方、印刷の方式を見直したいとお考えの方は、ぜひデジタル印刷の導入を選択肢の一つとしてご検討ください。用途や予算に応じた最適な提案も承っております。
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